日本科学振興協会 年次大会2023

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注目展示・ポスター(2)

「会いに行ける科学者フェス」では、講演、シンポジウム、ハンズオン、ステージ、シアター、オンライン企画のほかに、多くの科学者や科学に関わる人が、「一般ポスター発表」と「展示(御協賛いただいた企業・大学・プロジェクト等による)」を行います。そういった発表をご紹介している「第2弾」です。

第1弾はこちら

 

展示 食の心理メカニズムを司る食嗜好性変容制御基盤の解明
喜田 聡(東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻)

食は愉しみを通してこころを満足させます。一方、食習慣は食嗜好性によって形作られ、食経験によって変化します。食習慣は疾患の原因となりますが、健康重視の食習慣への改善は精神的苦痛となります。そこで、本プロジェクトでは食の観点から「こころの安らぎや活力を増大させる」ことを達成するため、食の嗜好性によって快情動や共感がもたらされるメカニズムを脳科学的に解明し、健康に優しい食を愉しんで食べる食習慣への改善技術を開発することに挑戦しています。
本プロジェクトの目標の一つが2050年に「好き嫌いをなくす」ことです。この目標を達成するために「食の心理メカニズムを解明して、食の嗜好性を変化させる技術の開発を目指しています」。本展示ブースでは、本プロジェクトの研究内容を紹介しします。さらに、「食の心理メカニズム」を理解することを目的に、簡単な食嗜好性に関するアンケートを実施します。このアンケート結果は本プロジェクトの研究進展の参考となる予定です。

 

展示 宇宙線を可視化する原子核乾板と超高感度霧箱 〜ピラミッド内部の未知空間の発見に大活躍!〜
森島 邦博(名古屋大学)

宇宙線とは、大気上空から地上に絶え間なく降り注いでいる放射線の一種で、日常的に私たちの体を通り抜けています。この宇宙線に含まれるミューオンと呼ぶ素粒子は、物質を透過する力が非常に強いため、数キロメートルの火山でさえも貫通してしまう透過力を持ちます。この宇宙線の高い透過力を利用してX線レントゲン撮影のように巨大な物体の内部を透視する技術を宇宙線イメージングと呼びます。私たちは、この宇宙線イメージングの技術を利用して、ピラミッドの内部を透視し、約200年ぶりにピラミッドの内部に未知の空間を発見しました。この展示では、ピラミッドの宇宙線イメージングで実際に使っている原子核乾板と呼ぶ特殊な写真フィルムと共に、肉眼で宇宙線や身の回りの環境放射線の軌跡を観察することができる超高感度林式霧箱の最新版を展示します。

 

展示 脳波脳トレ競技「bスポーツ」による健康脳の維持と社会的交流の推進 (9日のみ)
長谷川 良平(産業技術総合研究所)

近年,脳と機械を直結するBrain-Machine Interface(BMI)の医療/福祉/健康分野における実用化の動きが盛んになっている.産総研では,特に注意の高まりを反映した頭皮上脳波成分「事象関連電位」をスイッチとして外部機器制御を行うためにハードウェア(簡便なヘッドギアなど)とソフトウェア(高速・高精度の脳情報解読手法など)の両面にわたる研究開発を行ってきた.これらの脳波BMI技術をヒト型ロボットやVRゲームなどと組み合わせたのが認知訓練システム「ニューロトレーナー」である.このシステムの想定ユーザーは幅広く,認知症予防のリスクの高い高齢者や,寝たきり生活の長い患者,eスポーツなどに興味のある若者などが含まれる.それゆえ,ニューロトレーナーを用いた対戦競技「bスポーツ」は世代の違いや障害の有無を超えた社会的アクティビティとして国民の健康増進と新産業の育成に貢献すると期待できる.

 

展示 透明化された組織・器官・個体をまるごと3Dデジタルデータ化できる光シート蛍光顕微鏡
中山 創平(ミルテニーバイオテク株式会社)

近年、生き物の組織や器官を透明化する技術の開発が盛んです1。この組織透明化技術を活用して、マウスの脳全体の中で神経発火している部分を網羅的に調べたり2、マウス個体全体を透明にして、転移したがん細胞の分布を調べる研究がなされています3 。このような試料をくまなく観察するために光シート蛍光顕微鏡が運用されています。光シートを通過するように試料が移動することによって、光シートが照射された部分だけが蛍光を発します。その画像を連続的に得ることによって、実際の試料を3Dデジタルデータ化することが可能になります。
ミルテニーバイオテク株式会社は、マウス脳やマウス個体全体といった、比較的大きなサイズの光シート撮影を可能にする顕微鏡、UltraMicroscopeシリーズを発売しており、日本国内においてさまざまな研究機関で運用されています4 。本ブースでは、実際の光シート蛍光顕微鏡や実際の透明化された試料を展示します。また、バーチャルリアリティゴーグルを装着して、実際に得られた3Dデータを体験できるコーナーも設置します。

 

展示 市民参加型研究プロジェクト「地球冷却微生物を探せ」
青木 裕一(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構/東北大学 大学院情報科学研究科)

一酸化二窒素(N₂O)は二酸化炭素(CO₂)の265倍もの地球温暖化係数をもつ温室効果ガスで、農地を中心として土壌が主要な発生源になっている。土壌からのN₂Oの発生には、物理的・化学的プロセスに加え、土壌微生物による窒素代謝が大きく寄与していることが示唆されている。この現象を包括的に調査するために、私たちは「地球冷却微生物を探せ(英語版名称: Soil-in-a-Bottle)」と題した市民参加型研究プロジェクトを立ち上げ、日本各地から多様な土壌試料を収集し、N₂O放出速度・微生物群集構造・土壌環境(酸性度、水分量、色、植生、土地利用 など)に関する各種データを整備してきた。2021年12月から2023年7月までの間に、800名以上の市民科学者の協力を得て、約1800個の土壌試料を収集・分析し、多変量解析や機械学習技術活用して土壌からのN₂O発生に関与する土壌微生物や土壌環境因子の探索を進めている。本ポスター発表では、プロジェクトの推進によって得られた日本土壌の環境・微生物データの概観を紹介するとともに、土壌試料や微生物情報の利活用方針について議論したい。また、市民参加型の研究プロジェクトを遂行する上でのノウハウや課題について、多様な立場の年次大会参加者と幅広く意見を交わしたい。

 

ポスター 自発光植物デバイスの創出と社会実装に向けた展望
永井 健治(大阪大学産業科学研究所)、出村 拓(奈良先端科学技術大学院大学)

私たちの研究室で進めている発光生物が有する仕組みを導入することで自初的に発光可能な植物(LEPと総称)についてお話しします。本LEPは全く電力を消費しないだけでなく、二酸化炭素を自動的に吸収固定でき、地球上のどこにでも実装することができます。しかも産業廃棄物とならずに自発的な資源循環が可能であることから、二酸化炭素の超ゼロエミッションを実現する従来技術の延長線上にない全く新しい技術として期待されます。

 

光るポプラの幼木
写真:出村拓(奈良先端科学技術大学院大学)

 

 
ポスター 日本刀の科学的な分析:失われた古の製法解明を目指して
中田 隼矢 (岐阜大学 教育学部技術教育講座)

日本刀は平安時代の終わり頃に誕生したとされ,現在では主に美術工芸品として国内外で高く評価されている。日本刀は時代と共に形状や刃文などが変化しており,各時代の日本刀にそれぞれの見どころがある。その中でも,特に評価が高いのは鎌倉時代頃に作刀されたものであるが,当時の詳細な作刀方法は伝承されておらず現在では完全に同じものを製作することはできないとされる。失われた日本刀の製法を解明するため様々な科学的分析が行われており,多くの有益な知見が得られているものの,未だ完全な製法解明には至っていない。発表者は,従来あまり評価されてこなかった「鋼の強さ」という観点から,日本刀の科学的分析に取り組みだしている。本発表では,発表者の研究で得られている知見も交えながら,現在わかっている日本刀の製法を科学的に紹介する。

 

ポスター 私たちの脳に寄生する生物〜寄生虫トキソプラズマ〜
伴戸 寛徳 (旭川医科大学 感染症学講座 寄生虫学分野)

一般的に、人間に寄生する生物と聞くと、アニサキスやサナダムシなどの比較的大きな生物を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし実際には、人間の身近には肉眼では見えない寄生虫もたくさん存在しています。寄生虫はヒトに感染すると、様々な病気の原因となりますが、多くの場合は正しい処置を行うことで寄生虫は体内から取り除かれ、治癒します。しかし、一度感染すると、生涯にわたって体内に残り続ける寄生虫も存在しています。私たちの研究室では、人間の身近に存在しているが肉眼では見えない小さな生物であり、一度ヒトの体内に入ると生涯寄生し続ける寄生虫「トキソプラズマ」について研究をしています。
トキソプラズマは、ネコが生息する場所であればどこにでも存在する可能性のある寄生虫です。ガーデニングや砂遊びなどの際に、ネコのフンと共に排出されたトキソプラズマの虫卵が口から入ってしまったり、トキソプラズマに汚染された食品を加熱不十分で食べてしまったりすることで、ヒトはトキソプラズマに感染します。そして、ヒトの体内に入ったトキソプラズマは最終的には「脳」に寄生し続け、生涯にわたってヒトの体に様々な影響を及ぼします。トキソプラズマは全世界に分布していて、世界人口の3分の1以上の人々の脳内にはすでにトキソプラズマが寄生していると考えられています。しかし、脳への寄生したトキソプラズマを除去する技術はまだ開発されていません。
そこで私たちは、「トキソプラズマはなぜヒトの脳に寄生し続けることができるのか」を明らかにすることで、治療法や予防法の開発に繋げることを目指して研究を進めています。今回は、これまでに解明されてきたトキソプラズマの巧妙な寄生戦略に加えて、私たちの最新の研究についてお話しします。

 

ポスター 出る杭は打たれる:日本の経営者たちの給料はどうやって決まる?
濵村 純平(桃山学院大学経営学部)

この研究では、日本の経営者たちの給料(正確には報酬といいます)がどうやって決まっているかを調べています。日本にはたくさん大企業がありますが、経営者の給料がどうやって決められているかを、私たちに細かく見せてくれる企業はそれほど多くありません。私たちは、そういった経営者たちの給料が、「出る杭は打たれる」ということわざと関係する、日本の文化に影響を受けて決まっているのではないかと考えました。つまり、ほかの会社よりもたくさんもらっている経営者は、テレビやネットで大きく批判されるのではないかと予想したのです。もしそうだとすると、企業が経営者の給料を決めるときにどうやって決めるのでしょうか。そのヒントを与えてくれる例がいくつかあります。たとえば、日本のトップ企業の1つであるトヨタはほかの企業の給料を参考にして自分の経営者の給料を決めているといっています。この例が教えてくれるのは、日本の企業はほかの企業の給料をみて、それを参考にしたうえで自分の企業の経営者の給料を決めている可能性があるということです。私たちはこういった例から、給料の決め方を世の中の人が知らない企業でも、「ある企業の経営者の給料は、ほかの企業の給料を参考に決めているのではないか」という予想を立てました。つまり、ほかの企業の給料から大きく離れてしまうと、「出る杭は打たれる」ことになってしまうので、ほかの企業の給料を参考にすることで「出る杭」になることを避けるのではないかと予想したのです。実際に、データを利用して調べてみると、日本の企業は経営者の給料をほかの企業の給料を参考に決めている傾向にあるとわかりました。このような経営や会計の出来事は、みなさんの想像する「科学」とは違うかもしれません。しかし、私たちの研究のように、科学的な方法で社会の出来事を調べていく学問分野もあることを知ってもらえればうれしく思います。

 

ポスター 住まいと健康の関係:生活環境病とは?
海塩 渉(東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系)

現在の日本の健康政策では生活習慣の改善に重点が置かれ、生活環境はほとんど政策に取り入れられていない。しかし、人が一生のうちで最も多くの時間を過ごす住まいの環境は、そこに住まう居住者の健康と密接に関連する可能性がある。そこで、国土交通省が主導する住宅の断熱改修前後調査に基づき、住まいの温熱環境と血圧、血中脂質や心電図等の循環器指標の関連を検証した。2014~2019年度の冬季、住宅の断熱改修前後の各2週間、家庭血圧と室温の実測を行い、日本全国の2500世帯5000名以上が調査に参加した。
断熱改修前時点の居間の平均室温は16.8℃であり、居間の最低室温はWHO基準である18℃を下回る世帯が9割以上であった。脱衣所と寝室の平均室温は居間より4℃低く、更に劣悪な環境であった。都道府県別に見ると、外気温が最も低い北海道の室温が最も高く、外気温が高い南西地域においても低室温の住まいが散見された。
室温と家庭血圧の関連の分析を行ったところ、循環器イベントが多発する起床時の室温低下に伴い血圧が上昇する関連が認められた(8.2 mmHg上昇/10℃低下)。また、高齢者や女性の血圧は室温の影響を受けやすいことが示された。
断熱改修による血圧への因果効果の検証を行うため、改修前後の同一居住者の血圧を比較した。断熱改修は起床時の最高血圧を平均3.1mmHg低下させ、高齢者や喫煙者、高血圧患者といった循環器疾患のハイリスク者ほど、断熱改修による血圧の低下量が大きいことが明らかになった。
さらに健診データを用いた分析の結果、寒冷な住まいの居住者の血中脂質が高く、心電図異常が多い可能性が示唆された。
本研究より、高血圧及び循環器疾患は単なる「生活習慣病」ではなく、「生活環境病」でもある可能性が示された。高血圧及び循環器疾患の更なる予防に向けて、生活習慣と生活環境の両輪による対策が有効と考えられる。

 

ポスター 大気汚染と認知症:PM2.5は脳の老化を加速させるのか
小野田 淳人(山口東京理科大学・薬学部)

世界全体で高齢化が進み、加齢に伴って発症リスクの上昇する認知症の予防が国際的に重要視されている。2020年、Lancet委員会が発表した、認知症を予防するために対策すべき危険因子の中に、「運動不足」や「糖尿病」などと並んで、「大気汚染」が追加され、注目を受けた。大気汚染と認知症リスクについて調査した疫学研究やそのデータを用いたメタアナリシスによると、大気汚染の中でも、微小粒子状物質(PM2.5:厳密な定義は異なるが概ね、粒径2.5 μm以下の粒子を指す)、対流圏オゾン、窒素酸化物が有意なリスクを示す。また、特にPM2.5の影響が大きいことも明らかにされた。WHOが発表する、健康上のリスクが十分に小さいPM2.5の許容濃度は、年平均5 μg/m3であるが、この基準を満たした環境に住む人口は、全体の1%に満たない。大気や空気は、我々が個人で選択し、作り出すことの困難な環境因子の一つである。世界でも有数の超高齢社会となった我が国では、認知症の予防は喫緊の課題であり、その予防に貢献する大気汚染対策は重要といえる。本発表の演者は、10年以上にわたって、粒子と脳の関係性について研究を行ってきた。特に、PM2.5の中でも脳機能へのリスクが大きいされる超微小粒子(ナノ粒子:1–100 nm)を対象に、超微小粒子の脳への移行性や脳組織病理の変化、その影響が生じる機序・根本原理について解き明かすべく、研究を行っている(創発的研究支援事業:「超微小粒子は如何にして脳の老化を加速させるのか」 等)。本発表では、最新の疫学的知見と演者の研究成果を交え、大気汚染の中心的な物質であるPM2.5と加齢随伴性の疾病である認知症や脳機能異常の関連性について紹介する。そして、その知見を踏まえ、これからの未来、人々の健康増進に貢献するために、大気汚染対策としてすべきことについて議論したい。

 

ポスター 可食ロボットの研究
新竹 純 (電気通信大学・情報理工学研究科・新竹研究室)

食べられるロボット,あるいはロボットのような食べ物を創り出そうとする可食ロボティクスは,食品科学とロボット工学が交錯する研究領域である.可食材料をロボティクスに応用することで,医療や災害救助,生態系の保護といったロボットの新しい用途が創出されるとともに,これまでに見られなかった,動的な形状変形などのメカトロニクス的特性を付加した料理や食品の開発が期待される.それによって,ロボットに代表される人工システムの在り方そのものが変わり,食文化の発展にも寄与することができると見込まれる.
本発表では,我々これまで行ってきた種々の可食ロボティクスの研究について説明する.具体的には,まず本来交わることのない食品科学とロボット工学を材料が持つ特性から融合させた独自のアプローチを紹介する.次に,そのアプローチの結果見出すことができたゼラチンベースの伸縮材料と,それを応用したアクチュエータについて述べる.このアクチュエータは空気の入力によって動作するものであり,食べることができる.それに加えて,アクチュエータそのものの性能は,非可食のものと同等であることが分かった.空気式のアクチュエータには様々なタイプがあり,本発表では上述のゼラチンベースのものだけでなく,カラギナンベースのフィルムによって構成されるアクチュエータについても説明する.材料の機械特性に着目する我々のアプローチによって,伸縮材料だけでなく,ロボットに適用が可能な硬い材料も見出すことができた.それを翼として用いた可食ドローンを開発し,成功した飛行実験の詳細についても説明する.

 

ポスター 古民家での学術誌カバーアート展示を通した市民とのコミュニケーションとまちづくり
宇田 亮子(奈良工業高等専門学校)

科学分野の学術誌には、表紙に研究内容を表現したイラストが描かれることがあります。これをカバーアート(またはカバーピクチャー)といいます。研究内容を直感的かつ魅力的に伝えることに重きを置き描かれています。我々は学術誌カバーアートが、科学に関して市民とコミュニケーションをするよいきっかけになると考えました。また、押し付けがましくないやり方でアプローチするには、通りがかりといった意図しない出会いを設定することが必要です。そこで所属機関所在の自治体と連携し、カバーアート展示を行いました。住民が”何か面白そうなことをやっている”と、帰宅途中や買い物のついでに足を運ぶことを狙いとしました。地域には古い日本家屋が比較的多く残っており、その1つをクラウドファンディングでリノベーションしたイベントスペースを会場としました。加えてコーヒーを飲みながら鑑賞することで、科学を日常の延長線上に感じられるような工夫を行いました。来場者グループごとにギャラリートークを行い、会話や空間の雰囲気づくりを心掛けました。カバーアートの研究にちなんだサイエンスカフェも同時開催しました。展示の様子は、新聞やテレビ、市の広報誌にも取り上げられ、まちの活性化や地域の価値を高めることが期待できるものとなりました。これら一連の活動について報告します。

 

ポスター 行政におけるアバターの活用と展望
長谷川 福造(慶應義塾大学総合政策学部)

2023年2月、鳥取県が「メタバース課」を設立し、日本で初めてAIアバター職員を採用した。また、東京都町田市では、デジタル技術を活用した行政サービス改革を進めるため、「町田市デジタル化総合戦略2022」に基づいて、システムのクラウド化と標準化、行政手続のオンライン化やAI・アバター・メタバースなどの先端技術を活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいる。このように、DXの推進は、自治体においても重要課題の1つになっている。
 さらに、生成AI(ChatGPT)の行政実務での利活用に関する議論が、今年に入って活発化している。従来の文脈を超えた行政のデジタル化が進展する現在、法学的観点も加味した分析が求められている。
 今回のポスター発表では、行政機関における近時のアバターの利用状況を概観するとともに、法学的視点で住民のニーズに適合した先端技術の活用について解説する。
 ※本研究は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものです。

 

ポスター 論理の力で統計を正しく使う
川本 裕輔(産業技術総合研究所)

新薬の効果が既存の薬よりも高いかどうかや、政策が効果的かどうかなどを調べるために、仮説検定などの統計手法が多く用いられます。これらの統計手法は、どのようなときに適用可能であるかや、どのような結果が出た場合にどのような結論が導けるかについて、細やかな条件が付されているものが多数あります。これらの条件を守らずに統計手法を適用することによって、誤った結論を導いてしまうことも多く、科学の世界でもしばしば問題となっています。
そこで、本研究では、統計手法が正しく適用されているかについて自動的に検証するための枠組みを提案します。この枠組みは、コンピュータプログラムの正しさの形式検証に用いられる「ホーア論理」に基づいています。ホーア論理では、プログラムが実行前にどのような条件を満たしていれば、実行後にどのような条件が成り立つかについて、論理式を用いて数理的に厳密な形で記述できます。本研究では、ホーア論理を拡張し、統計手法の手続きや実行結果に関する条件を記述できるプログラム論理を構築します。具体的には、「統計的仮説検定によってデータから何らかの信念が得られる」という視点に立って、仮説検定の実行によって得られる信念を記述するための論理体系を定義し、これを用いてホーア論理を拡張します。本研究のプログラム論理 BHL (Belief Hoare Logic) を用いることで、仮説検定で問題となることが多い多重比較やP値ハッキングなどについて、演繹的に推論できることを示します。
本研究は、JST さきがけJPMJPR2022、JST CREST JPMJCR2012の支援と、JSPS 科研費JP20K19775 の助成を受けたものです。

 

ポスター ロンブンアートストリート
浅井 順也 (Academimic)

「なんかいいじゃん」から始まる科学を。

一般的には馴染みのない学術論文をアートで情緒的に表現する「ロンブンアート」を秋葉原に掲出します。論文は客観的な情報ですが、そこから生まれる想像は、映画や小説に引けを取らないクリエイティビティが潜んでいると考えています。私たちAcademimicはそんな論文から生まれる情緒をアートという身近な形で表現しました。論文に触れて生じた情感を、人とAIの合作による物語性のある詩やイラストにし、客観的な情報から生まれる情緒的な世界を通して研究由来のアート作品をお楽しみください。

 

(2023.9.30)

 

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