日本科学振興協会 年次大会2023

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注目展示・ポスター(1)

「会いに行ける科学者フェス」では、講演、シンポジウム、ハンズオン、ステージ、シアター、オンライン企画のほかに、多くの科学者や科学に関わる人が、「一般ポスター発表」と「展示(御協賛いただいた企業・大学・プロジェクト等による)」を行います。そういった発表のいくつかをご紹介します。

第2弾はこちら

 

展示 生命を支えるタンパク質はカタチがいのちータンパク質科学の基礎から最新の話題までー
田口英樹(東京工業大学 科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター)

タンパク質というと肉や卵の「タンパク質」を連想するかもしれませんが、私たちを含むあらゆる生命が生きていけるのは、何千、何万種類というタンパク質が細胞の中ではたらいているおかげです。まだ不思議だらけのタンパク質の世界の秘密を解き明かすには、生物学だけでなく、化学、物理、情報科学、工学など分野を横断した総合的な研究が必要となっています。本展示では、タンパク質にちなんだパズルやおもちゃ、緑に光るタンパク質(GFP)などを展示した上でタンパク質科学の基礎を学んでもらえます。タンパク質科学を進めている現場の大学院生や研究者との対話を楽しんでください。

 
ポスター 分子マップが導く脳の冒険
高野哲也(慶應義塾大学医学部生理学(神経生理)教室)

私たちの脳は、感情や記憶、意識の中核をなす非常に複雑でミステリアスな組織です。現代の最先端AI技術でさえ、脳の働きを完全に再現することはできません。脳は860億を超える神経細胞とグリア細胞で構成され、私たちが体験するすべての出来事や情報を巧みに処理します。近年の研究によって、これら脳の情報処理には、細胞内の分子(特にタンパク質)の活動や連携が密接に関連していることがわかってきました。つまり、分子の位置情報や振る舞いを読み解くことで、私たちが何を感じ、何を考えているのか、その思考や感情さえも理解できる可能性があります。

 本研究では、脳の神秘を解き明かす鍵として、「分子マップ」を読み解くための最新の研究を紹介します。この分子マップの中を冒険することで、脳がどのようにして動き、私たちの思考や感情がどのように生まれるのか、その謎を探求します。また、これらの分子マップは、より人間らしい意識や想像力を有する人工知能(AI)の開発、そして将来的に多くの障害者を支援する脳コンピューターインタフェース(BCI)の開発にも繋がることが期待されています。さらに、脳の多くの病気、例えばアルツハイマー病、発達障害やうつ病などの治療法の開発にも貢献し、病気の原因や進行を分子レベルで理解することで、新しい治療法の開発に繋がる手がかりを得ることができます。

 

ポスター 気候変動に耐える作物遺伝資源の開拓:革新的な育種、細胞遺伝学技術の開発
石井孝佳(鳥取大学乾燥地研究センター)

人類が主食として食べている作物は非常に限られています。現在では、コムギ、コメ、トウモロコシが主に栽培され食べられています。これからは、未利用作物を利用し、持続可能な農業を提案することは非常に重要になってきています。また、育種学、細胞遺伝学分野における、革新的技術開発は人類の持続可能な発展に必要不可欠です。そこで、私達のグループでは植物細胞遺伝学を駆使し、作物改良の方法を開発しています。具体的には、1・遺伝的、細胞遺伝学的研究を利用した未利用作物遺伝資源の開拓、2・動原体関連タンパク質の改変による育種年限短縮技術の開発、3・ゲノム編集技術CRISPR/Cas9を用いたゲノムの可視化技術開発、4・遠縁交雑による遺伝資源の拡大、5・薬剤による植物の大量除雄法の開発、6・雑種細胞で起こる染色体脱落機構の解明、7・顕微授精法のイネ科作物への適用による遺伝資源の拡大などを行っています。

 

ポスター 「情動情報解読に基づく人文系学問の再構築」のご紹介(学術変革領域研究B)
近添順一(株式会社アラヤ)

心理学・言語学・経済学・美学といった人文系学問では、人間の行動やその記録から、心的プロセスのモデルを作ります。こうしたモデルを考えるにあたって、情動が人間の行動にどのような影響を及ぼすかを理解することが重要ですが、個人が「どのように感じているか」を直接計測することが難しいことから、情動の働きを直接モデルに取り込むことは簡単ではありませんでした。

機能的MRIは、生きた人間の脳活動を計測できる手法で、被曝などの心配のない安全な手法であることが知られています。近年、機械学習を使った解析技術の進歩によって、脳活動から個人の情動状態を推定することが可能になりつつありますが(Chikazoe et al., 2014; Pham et al., 2021)、解析上の技術的ハードルも高く、脳活動から推定した情動状態の情報を取り込んだ言語学・経済学・美学モデルはほとんどありません。

本研究領域においては、機械学習を用いた機能的MRI研究の専門家である近添(アラヤ)が中心となって、自然言語処理の専門家である持橋大地先生(統計数理研究所)とミクロ経済学の専門家である渡辺安虎先生(東京大学)、および美学研究の専門家である石津智大先生(関西大学)と協力し、情動から言語・経済・芸術を理解するような新しい学問の枠組みを作っていきます。

本研究領域では、脳活動から解読した情動情報に基づいて、人文系の学問における新たなモデル、新たな概念を提示することを目指しています。このアプローチによって、オークション等の経済制度を人間の情動的反応に最適化した設計を可能にするなど、実社会へのフィードバックを意識した研究を進めて行きます。

 

ポスター 蓄熱材料として期待されるλ-Ti3O5の合成
久保田智子(筑波大数理)

酸化チタンといえば、光触媒や顔料など生活のあらゆる場所に使われている白色の二酸化チタン(TiO2)が広く知られている。黒色酸化チタンと呼ばれる酸化チタンには、七酸化四チタン(Ti4O7)、五酸化三チタン(Ti3O5)、三酸化二チタン(Ti2O3)など様々な多形が存在する。これらは、金属相と半導体相で相転移現象を示すという興味深い物質である。特に、Ti3O5をナノ微粒子化することで現れる金属相のλ型は、半導体相のβ型と光や熱などの外部刺激により可逆的な相転移を示すことが報告されている。また、圧力をかけるとλ型からβ型へ相転移し、そのときに熱を発する。このようにλ型五酸化三チタン(λ-Ti3O5)は、外部刺激により相転移を制御でき、高い蓄熱エネルギーを長期間保存し、低い圧力で蓄熱したエネルギーを放出できるという魅力的な蓄熱特性を示すため、蓄熱材料としての応用が期待されている。そこで、このλ-Ti3O5の新たな合成方法として、低毒性で、ナノ微粒子を合成することができるブロックコポリマーを用いた合成方法の検討を行ったので報告する。

 

(2023.9.29)

 

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