日本科学振興協会 年次大会2023

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盛山正仁文部科学大臣によるJAAS年次大会2023開会式でのビデオメッセージ(全文)

令和5年10月7日(土)

文部科学大臣の盛山正仁です。

この度、日本科学振興協会(JAAS)の2023年度大会「会いに行ける科学者フェス」の開催、誠におめでとうございます。

近年、日本から提出される学術論文は伸び悩みを見せており、博士号取得者も減っているのが現状です。このような状況を改善するため、「日本の科学をもっと元気に!」を合言葉にJAASが設立され、昨年のキックオフミーティングに引き続き今回、2回目の大きなイベントの開催と伺っております。

私自身も多くの論文や著作を書いてまいりました。最初の論文はソマリアの海賊についてで、これが私の最初の博士論文でした。2つ目の論文は 鉄道政策でした。これが私にとっての商学の博士のものとなりました。そしてその後も 22冊本を出版しております。こういったことは私が研究、そして法案を作る際に得た知識や経験を後世に残す必要があると考え、そしてその立法者の意志、そういったものを形にする必要があると思ってきた結果でございます。

JAASはアメリカ科学振興協会(AAAS)の日本版の団体として設立されたと伺っております。AAASは、科学者間の協力を促進し、科学的自由を守り、科学界からの情報発信を奨励し、全人類の幸福のために科学教育をサポートするために作られた組織と聞いております。そのようなことを目指す組織が、JAASとして日本でも設立され、このようなイベントを開催されていることについては大変喜ばしいことだと考えます。

科学研究は、我が国の国民の利益はもとより、究極的には人類の利益のために行われるものと認識します。感染症やガン、認知症などの病の克服、気候変動やエネルギー問題、少子高齢化など日本だけでなく世界が直面する課題の解決、我が国の国民、ひいては人類全体のウェルビーイング・幸福の向上といったことが科学研究には期待されていることは間違いないところではありますが、資金を提供する国や団体は、そのような多くの選択肢の中から、限られた資源を元手に、どのようなテーマに、どの程度の額を投資すべきかを決めることも必要とされています。しかし、研究をされている皆様方はよくご存知と思いますが、研究の成果やそれによって変わっていく未来を長期的に予測することは大変難しく、どのような分野にどの程度の投資をすれば、我が国の国民の皆さま、そして人類の利益を最大化することができるのか、我々はこの難題に日々頭を悩ませながら決断を迫られております。

我々が未来への投資の最適なあり方を考える上で、多くの科学者の方々によるアイデア、そしてご協力が必要です。そのような意味で、私はJAASの皆さまが掲げられている「対話」の重要性について心から共感するものです。産官学民での対話を進め、国民の利益、人類の利益のために、日本の科学を元気にしていきたいと考えております。

科学者の方々の原動力となるのは、何かを知りたいという好奇心や、何かを実現したいという情熱であると認識しております。科学者の皆さまの研究活動がより活発となり、より多くの成果を生み出されるようにするためには、好奇心と情熱に主導される研究が、安心してそして自由に伸び伸びと行われるような環境が必要です。昨年のJAASのキックオフミーティングでご講演されたワイツマン研究所で所長をされていたDaniel Zajfman(ダニエル・ザイフマン)博士のご講演によりますと、そのような好奇心と情熱を持っている科学者に投資をする必要があるということでした。

またオバマ大統領は、どんな分野の研究においても研究というものは、1年あるいは10年行っても報われないこともありますし、あるいは全く報われないこともあります。報われたときの報酬はその科学者やコストを出資した人々だけでなく、負担していない人々にもその報酬は享受されます。これこそが民間企業などが一部の研究に対して十分な投資を行うことを難しくし、私たちが国として投資をしなければいけない理由です、と述べています※。どの科学者が、あるいは、どのような分野の研究が報われるのかは、事前にはわかりにくいものですが、科学全体への投資は、長期的には極めて効率が高く安全な投資であることを歴史が証明しています。

強い好奇心と情熱を持ち続けている科学者の皆さまに然るべき投資をしていく必要性を強く感じております。しかし、残念ながら、現在、日本では、給与や働き方、ライフプランにおいて、科学者の皆さまが安心して生活をすることは非常に難しいのが現状であると思います。科学者の皆さまが安心して、元気に研究に没頭できるような社会を実現し、若手の研究者の方々が誇りを持って自分の生き方を選択できる未来を創り出すためにも、JAASの皆さまが掲げられている「対話」は重要であると私は思います。このイベントを通して、研究者の方々、一般市民の方々、企業、そして我々政治行政の関係者がお互いに多くの対話を重ね、日本の科学の未来、そして日本の未来を話し合う機会が生まれていくことを期待しております。

最後になりますが、JAASの発足や2023年度の年次大会の開催に向けてご尽力をしてこられましたすべての方々に敬意を表すとともに、感謝を申し上げます。今後も、オールジャパンで日本の科学研究を盛り上げ、元気にして参りたいと思います。よろしくお願いします。

オバマ大統領(2009当時)によるNational Academy of Sciencesでのスピーチ

(2023.10.7)

 

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